資産管理法人を設立する目的とメリット・デメリットとは? | 所得税が有利になる金額も解説

不動産投資をするなら資産管理法人(会社)を設立した方が有利という情報をご存知でしょうか。しかし、法人設立となると色々と手続きもありますから、迷っている方も多いのではないでしょうか?

そこで、当記事では資産管理法人(会社)を設立するメリット・デメリット、所得税が有利になる所得額、資産管理法人の設立手順などについて解説します。

ぜひ、参考にしてください。

資産管理法人(会社)とは

資産管理法人(会社)とは、資産管理を目的とした法人(会社)のことです。一般の法人(会社)は株式の発行により資金を集め、これを元手に営業し収益をあげていきます。

資産管理法人は、オーナーの資産を運用・管理する目的で設立されるというように、そもそもの目的が異なるのです。そのため、プライベートカンパニーとも呼ばれています。

個人で資産を管理するのに比べ、税制面で優遇される要素が多いため、近年資産家は積極的に資産管理会社を設立する傾向がみられます。

そのなかで、2024年現在、日本で設立できる会社は以下の4種があります。

  • 株式会社
  • 合同会社(持分会社)
  • 合資会社(持分会社)
  • 合名会社(持分会社)

株式会社以外の3種の会社を持分会社と呼び、現在設立することができない有限会社は株式会社として扱われます。

このうち資産管理会社として設立されるケースが多いのは、合同会社です。合同会社は株式会社よりも設立や維持コストが安く、何かと自由度が高いことがメリットとされます。

個人事業において、資産管理会社化するには所得がいくらになったら有利かなど、そのメリット・デメリットから見ていきましょう。

資産管理法人を設立するメリット

資産管理法人(会社)を設立するメリットについて、ここでは合同会社を設立することを前提に解説します。

まず、合同会社と株式会社の違いを理解しておきましょう。

合同会社 株式会社
所有と経営 一致 分離
出資 持分 株式
出資者 社員 株主
出資者の責任 有限責任 有限責任

合同会社の出資者は、株主ではなく社員と言います。また、株式会社の取締役は株主でなくても就くことができますが、合同会社では出資者である社員が役員として、経営にあたるのが違いです。

出資者の責任は、どちらも有限責任となるため、合同会社も株式会社も同じになります。合同会社の具体的なメリットは次のとおりです。

  • 所得の分散効果で節税できる
  • 個人事業者より経費の範囲が広い
  • 損失の繰越控除期間が最長10年
  • 相続税対策がやり易い

それぞれ見てみましょう。

所得の分散効果で節税できる

合同会社を資産管理法人として設立する場合は、プライベートカンパニーになるため、オーナーのみならず、ご家族を社員として持分を設定すると所得の分散効果が得られます。

所得税は累進課税方式のため、例えばオーナーの年収が3,000万円の場合、所得税は約1,300万円になりますが、これを以下のとおりご家族に分散します。

オーナー:額面1,500万円、所得税191万円

妻:額面1,500万円、所得税191万円

所得税合計:382万円

所得税だけでも918万円の節税になりますから、福利厚生費などを含めてもかなりの節税効果が得られます。

個人と法人では所得税率が違う

個人と法人の所得税率は、以下のとおりです。

<所得税率>

課税対象額 税率 控除額
1,000円 から 1,949,000円まで 5% 0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで 10% 97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで 20% 427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで 23% 636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで 33% 1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで 40% 2,796,000円
40,000,000円 以上 45% 4,796,000円

引用元:国税庁ホームページ

<法人税率>

区分 税率
普通法人 資本金

1億円以下

年800万円以下の所得部分 下記以外の法人 15%
適用除外事業者 19%
年800万円超の所得部分 23.20%
上記以外の普通法人 23.20%

引用元:国税庁ホームページ

 

上記税率表のとおり、800万円の課税所得の場合、個人の所得税率は23%に対し、資本金1億円以下の中小企業では、15%と8%も税率が変わります。

このことから、例えば不動産投資による課税所得が800万円を超えるタイミングで資産管理会社を設立すると節税効果があると言えます。

個人事業者より経費の範囲が広い

個人事業者(主)は、所得の種類ごとに収支を計算し、そのなかで損益通算が可能な所得が限定されています。例えば、株式投資の損失と不動産投資事業の利益は損益通算できません。

しかし、資産管理法人(会社)でこれら事業を行った場合は、法人の事業収支として損益通算が可能となります。

また、法人が所有する車両やその燃料費、修理代金についても、個人と会社の線引きを行う必要もなくなるため、経費の範囲は広がります。

損失の繰越控除期間が最長10年

繰越控除とは、事業で損失が発生したときにその事業年度だけ損失が認められるのではなく、次年度以降に繰り越して所得から差し引けるという制度です。

個人事業主は繰越期間が損失発生年度から最長3年間ですが、法人は10年間損失の繰り越しが可能となっています。

不動産投資では、所有不動産の売却が出口戦略として想定される中、売却価格が購入価格よりも低くなると損失が発生します。資産管理会社が所有する不動産の場合は、この損失を10年間という長期にわたって繰り越すことができるので、有利です。

相続税対策がやり易い

資産管理法人を設立すると、先述した所得の分散効果で家族に収入や資産を分配することで、贈与税をかけずに相続財産を徐々に移転できます。

また、株式会社の場合は株式で相続することで、相続の際の分割も簡単になり、相続人同士のトラブル要素を軽減する効果にも期待できます。

不動産売却益を株式売却益に変えられる

所有する不動産を資産管理法人が所有する場合、オーナーはその株式を保有することになり、万一の事態にはご家族は不動産ではなく株式を相続することになります。個人事業主として不動産を所有し相続するのと比べ、株式の評価額の方が低くなるため、その分相続税を低く抑えることが可能です。

加えて個人事業主の不動産を相続し相続税を払うため一部を売却する際には、不動産売却益は総合課税になりますが、株式または経営権の持分を売却すると株式の売却益として分離課税にできるため、大幅な節税になります。

資産管理法人を設立するデメリット

資産管理法人を設立する際には以下のデメリットもありますので、チェックしておきましょう。

  • 設立コスト、維持コストや運営コストが個人事業よりもかかる
  • 不動産など資産の移転コストがかかる
  • 事務処理負担が増加する
  • 資金を自由に使えない
  • 廃業する際のハードルが高い

設立コスト、維持コストや運営コストが個人事業よりもかかる

資産管理法人を設立するには、以下の費用が発生します。

  • 会社設立費用
    会社の最低設立費用は、合同会社が約11万円、株式会社が25万円程度です。合同会社は、設立認証手続きが不要のため、定款認証費用はかかりません。決算報告義務も免除されているため、官報への掲載も不要です。
費用内訳 合同会社 株式会社
定款認証費用 5万円
登録免許税※ 6万円 15万円
定款印紙代 4万円 4万円
印鑑作成、謄本手数料など 1万円 1万円
司法書士報酬 5万円 10万円

※登録免許税は、出資額に応じて税額が高くなるため、資本金の額を低く抑えることで、税負担を抑えられます。

  • 会社の維持費
    資産管理法人(会社)を設立すると、住民税の均等割が、例えば赤字決算でも最低年約7万円は発生します。その他、税理士報酬などの専門家への継続的な報酬が必要になる場合があります。

不動産など資産の移転コストがかかる

個人所有の不動産を資産管理会社に移転する際は、以下のコストが必要です。

1.登録免許税が固定資産税評価額の2%

2.不動産取得税が固定資産税評価額の3~4%

3.消費税が取引額の建物部分に10%

また、会社に移転後の資産は、会社の所有物となるためオーナー個人が自由に使うことができなくなります。もし、個人で利用した場合は、その割合に応じて役員報酬として所得と認定され所得税の課税対象となるため注意が必要です。

事務処理負担が増加する

個人事業主はすべての経営判断を自身の裁量で行えますが、資産管理会社(会社)では、法人としての法規に則った事務手続きが必要になります。例えば、経営上重要な事項に関しては、株主総会や役員会の決議と議事録が必要です。

また、会計帳簿や決算書の作成、税務申告書作成業務などの書類作成業務が増えるため、税理士などの専門家への業務委託や相談費用が増加します。

資金を自由に使えない

個人事業主であれば、資金は個人のものですから、自由に使うことができますが、資産管理会社の資金は会社の資金になるため、自由に使うことができなくなります。

また、役員報酬に関しては、以下の制限があります。

・金額を変更する際は定款や株主総会の決議事項

・支給額は一定期間変更できない

支給額を短期間に変更すると、増加分は役員賞与と見なされ、通常の税率と異なる税率が課されることになりかねませんので注意が必要です。

廃業する際のハードルが高い

個人事業を廃業する場合は、廃業届出書と事業廃止届出書、所得税の青色申告取り止め届出書などを提出するだけで事足ります。
しかし、資産管理会社の場合、以下の対応と費用が必要です。

会社廃業時の対応 費用
解散登記 登録免許税:3万円
清算人選任登記 登録免許税:9,000円
清算結了登記 2,000円
官報公告の掲載 掲載費用:約4万円
弁護士等専門家報酬 5万円~10万円

専門家報酬は、役員会議事録の作成、株主総会における解散決議と議事録の作成などの対応で必要になります。

株主総会で異議が出た場合には、手続きが前に進まないこともあり、廃業するまでに相応の時間が必要になることがあります。

資産管理法人の作り方と手順

先述した資産管理法人(会社)のメリットとデメリットを踏まえた上で、メリットがあると判断される場合には、以下の手順で設立しましょう。

合同会社

会社の基本事項を決定する

まず、以下の事項について、決定しましょう。

  • 社名
  • 本店所在地
  • 出資者、役員
  • 資本金(1円から可)
  • 決算月(設立から1年以内)

先述したとおり資本金を大きくすると体裁はよく見えますが、登録免許税や住民税の均等割りなど何かとコストがかかる要因になるので、注意が必要です。

プライベートカンパニーなので、資本金の規模による体裁は気にしなくても良いでしょう。

定款を作成する

定款は、会社の事業目的や組織などの会社の運営に関する基本事項を定め文書で残すものです。法人を設立する場合は、絶対的記載事項として会社法で以下のとおり定められています。

  • 事業目的(内容)
  • 社名(商号)
  • 本店所在地
  • 設立時に出資される財産の価格または最低価格
  • 発起人の氏名・住所

近年は定款の電子認証がありますが、インターネット上での認証は受けられません。事前に公証人役場に連絡し、定款の内容をチェックしてもらう必要があります。

また、認証済みの定款は、公証人役場保存用と会社保存用、設立登記用が必要で、公証人役場まで取りに行く必要があります。この際、発起人全員の印鑑証明書や電子署名した委任状が必要です。

印鑑を作成し資本金を払い込む

会社設立時には、設立登記申請で必要になる代表者印を作ります。併せて銀行印と請求書などで使用する会社角印も作っておきましょう。

印鑑を作成したら会社の銀行口座を開設し、資本金を払い込みます。出資者が複数いる場合には、各出資者の名前で振込を行うようにしてください。

登記完了後の書類提出

法務局のホームページで、会社の設立登記を行います。法務局はオンライン上でも各地で窓口が異なるため、必ず会社の本店所在地を管轄とする法務局で設立登記申請しましょう。

管轄の法務局で登記申請が受理された日が会社設立日となりますが、定款の写しや登記事項証明書が発行されるまでに数日の時間がかかります。

登記が完了したら、以下の書類を各所に提出してください。

  • 提出先:管轄税務署、都道府県事務所、市町村
  • 「法人設立・設置届出書」、「定款の写し」、「登記事項証明書」

以上で、資産管理法人(会社)の設立は完了します。

資産管理法人のメリット・デメリット|まとめ

資産管理法人(会社)の設立は、例えば不動産投資による家賃収入や売却益などのキャピタルゲインが得られ、節税対策が必要になる時期であればメリットを最大限享受できます。

しかし、不動産投資に着手したばかりで、数部屋しか賃貸していない、キャピタルゲインなどの利益を得ていない段階では、コストが嵩むためデメリットしかありません。

慎重に判断することをおすすめいたします。

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